何年も離れていたピアノを大人になって再開するときは、初めて習うときよりも早く進みます。楽譜の読み方やリズム、鍵盤の位置関係、かつてよく弾いた曲は、数日から数週間で戻ってくることが多いものです。一方、指を独立して動かす力や筋力、速さ、持久力は自然には戻りません。それぞれに合った練習が必要です。
再開した最初の月に、以前、最後に練習していた曲の楽譜を開く人は多いものです。耳が覚えているようには手が動かず、何もかも忘れてしまったと思うかもしれません。でも、実際には多くのことを覚えていて、いきなり一番難しいところから始めているだけということも多いのです。
これから初めてピアノを習うなら、大人の初心者向けピアノアプリの記事を読んでみてください。
この記事に登場するSongscriptionは、私たちが開発しています。同じチームがAnything Pianoも開発しています。どちらにも少し触れますが、記事の大半はアプリを使わない練習の話です。
すぐに戻ってくるもの
知識や、かつてしっかり覚えた曲は早く戻ってきます。楽譜の読み方、調号、リズム、コードの仕組みは、体の動きとしてではなく、知識として覚えたものです。多くの人は数日で思い出します。昔の曲は、20年たっていても、頭で思い出すより先に手が動くフレーズなど、断片から戻ってくることがあります。
すでに残っているものを一から覚え直す必要はありません。次のような力を確かめてみてください。
- 楽譜を読む力。 最初は時間がかかっても、音名やリズムの知識は残っています。毎日やさしい楽譜を読めば、速さも戻ってきます。
- 音楽理論。 以前ドミナント7thコードを知っていたなら、その知識は今も残っています。
- よく練習した曲の動きの記憶。 数か月かけて練習した曲、特に試験曲は、動きのパターンとして記憶に残っています。驚くほど長く残ることもありますが、最初から通して弾けるとは限らず、断片が戻ると考えてください。
- 耳。 ピアノから離れている間も、大人になってから音楽を聴いてきたので、以前よりよくなっていることもあります。
耳がよくなっていると、細かな乱れに気づける一方で、自分の演奏が実際より悪く聴こえることもあります。
鍛え直す必要があるもの
指を独立して動かす力、音をそろえる力、速さ、弱い指の筋力、長い曲を弾く持久力は鍛え直す必要があります。知識と違って、こうした指や腕を動かす力は練習しないと衰えます。定期的に、ゆっくり丁寧に弾いて取り戻します。初見でなめらかに読む力も衰えます。初めて見る楽譜をたくさん読む練習が必要だからです。
苦手になりやすいところには共通点があります。薬指と小指は筋力と独立して動かす力が先に落ちるので、トリルや速いスケールのフレーズ、右手の小指で音をそろえる動きが特に難しく感じられます。両手を合わせる動きも、片手ずつ弾くより不安定になりがちです。持久力も落ちているので、以前は通して弾けた曲でも、前腕が疲れることがあります。
ここで無理に弾き続けないでください。耳が曲の速さを覚えていると、その速さで練習し、力が入っても押し通したくなります。ゆっくり弾き、前腕や手首に力が入ったら止めます。力んだまま1か月弾き続けると、その癖を直すのに1か月よりずっと長くかかります。
ピアノから何年も離れた後、早く取り戻せる力と意識して鍛え直す必要がある力
| 技能 | 戻るまで | 練習のしかた |
|---|---|---|
| 楽譜を読む力 | 早い。最初はゆっくり | 毎日やさしい楽譜を読む |
| 理論とコード | 早い | 必要に応じて復習する。反復練習は不要 |
| よく覚えた昔の曲 | 断片から戻る | 残っている力の確認に使う。完成を目標にしない |
| 指を独立して動かす力 | ゆっくり | スケールをゆっくり弾き、短い練習をする |
| 速さと音のそろい方 | ゆっくり | メトロノームを使い、テンポを少しずつ上げる |
| 持久力 | ゆっくり | 短い練習から始め、少しずつ長くする |
| 初見でなめらかに読む力 | 中程度 | 初めて見るやさしい楽譜をたくさん読む |
ピアノを再開する最初の1か月の計画
最初の1か月は、以前弾いていたものよりやさしいレベルから始めます。毎日短い練習時間を取り、指の練習、楽譜を読む練習、弾きたい1曲の練習に分けます。ABRSMやRCMのグレードで、以前のレベルより2級ほど下が出発点の目安です。この月は曲数を増やすよりも、もどかしく感じずに練習できるくらいまで、指の動きを取り戻すことを目指します。
下の表は、ほぼ毎日20〜30分練習する計画です。1回の長さより頻度を重視します。ピアノを1日にどれくらい練習するかの記事では、指や腕を動かす力を鍛え直すときに、短い練習を頻繁に重ねるほうがよい理由を説明しています。
久しぶりにピアノを再開するときの4週間の計画。週ごとの重点と練習内容
| 週 | 重点 | 弾くもの | 次に進む目安 |
|---|---|---|---|
| 1 | ピアノに慣れ直す | ハ長調、ト長調、ヘ長調のスケールを片手ずつ。以前より2級下のやさしい曲 | 楽譜を読む負担が軽く感じられる |
| 2 | 音をそろえる | スケールを両手でゆっくり。短いチェルニーかハノンの練習を一つ。やさしい曲も続ける | ゆっくりしたテンポでスケールの音がそろう |
| 3 | 弾きたい曲を始める | 自分で選んだ1曲を短い部分に分けて始める。スケールも続ける | 曲の一部分をゆっくり弾ける |
| 4 | 定着させる | やさしい曲を仕上げ、選んだ曲を続ける。昔の曲を1曲、記憶か楽譜を頼りに加える | もどかしさより、練習が進んでいる感覚がある |
練習するときは、次のことも意識してみてください。
- 子どもの頃より片手ずつの練習を増やす。 弱いほうの手だけに集中して練習できます。多くの場合は左手です。両手を合わせる動きに気を取られず、音をそろえる力を鍛え直せます。片手ずつ練習する方法の記事でも詳しく紹介しています。
- メトロノームを使い、テンポを少しずつ上げる。 一気に本番のテンポにせず、1日に数目盛りずつ上げます。
- 指の練習は少しにする。 ハノンを数分か、短いチェルニーの練習曲を一つ弾けば十分です。指の練習は曲を弾くための準備運動です。
- フィンガリングを確認する。 昔の癖や、以前決めきれなかった指使いはすぐに現れます。昔の楽譜に指番号が書かれていないときは、ピアノのフィンガリング生成ツールを使うと、曲に合った指使いの提案を確認できます。
練習を続けたいと思える曲の選び方
今のレベルで弾けて、聴きたいと思う曲を1曲選びます。楽譜を読む練習や指の練習には、それよりやさしい曲を組み合わせます。子どもの頃は、先生や試験の課題に指定された曲を弾いていたかもしれません。大人になってからは、好きな曲を自分の手で弾いて聴きたいという気持ちが、ピアノに向かう支えになります。まずその1曲を選び、ほかの練習を組み合わせてください。
昔弾いた曲
昔の試験用の曲集は、楽譜を読む練習の出発点になります。そこから1〜2曲を弾き直して、何が残っているか確かめるのもよい方法です。「アンナ・マグダレーナ・バッハの音楽帳」のト長調のメヌエットや、ブルクミュラーの「25の練習曲」、クレメンティの「ソナチネ Op. 36」といった定番の教材は、再開する人の多くにちょうどよい難易度です。以前から知っている曲なら取り組みやすくなります。
ピアノに戻るきっかけになった曲
特定の1曲を弾きたくてピアノを再開する人も多いものです。映画の曲や好きなバンドの曲、結婚式で聴いた曲など、昔レッスンを受けていた頃には編曲された楽譜がなかった曲かもしれません。まだ全部を弾くには難しくても、その曲を3週目の目標にしてみてください。最初の部分をゆっくり覚え、残りは練習を続ける楽しみに取っておきます。
今のレベルに合う楽譜があれば、それを使えます。なければ、二つの方法があります。Songscriptionのピアノ採譜は録音を楽譜にするので、楽譜を読み続けたい人に向いています。やさしいピアノ楽譜は5段階の難易度で楽譜を作るため、低いレベルから始めて段階的に上げられます。
まず曲を弾き、楽譜を読む練習は後からしたいなら、Anything Pianoも使えます。オーディオファイルやYouTubeリンクの録音を、音符が上から落ちてくるピアノロールに変換します。画面に合わせて弾くと、Anything Pianoがマイクで演奏を聴き取ります。アコースティックピアノでも使えるので、昔のアップライトピアノで再開するときにも使えます。曲はパートに分かれていて、一つずつ覚えられます。曲の再生速度を落としたり、片手ずつ練習したりもできます。Fingeringをオンにすると、ピアノロールに指番号が表示されます。
Anything Pianoで表示されるのは楽譜ではなくピアノロールです。楽譜を読み直したい人は、その点を考えて選んでください。
再開するときによくある間違い
よくあるのは、以前やめたところから始めることです。最初の1か月を、まだ弾けるかどうかの試験のように考える人もいます。どちらも、技量とは関係なくもどかしさを感じる原因になります。以前よりやさしいところから始め、短い練習をこまめに重ねてください。再開したその日だけで判断せず、1か月定期的に弾いてから様子を見ます。
ほかにも気をつけたいことがあります。
- 若い頃の自分と比べる。 当時は何年も毎日練習していました。指や腕の動きが戻るまで、時間をかけてください。
- やさしい曲を飛ばす。 楽譜をなめらかに読む力や音をそろえる力は、やさしい曲を弾く中で戻ってきます。ためらわずに取り組んでください。
- 昔の曲だけを弾く。 昔のレパートリーを弾き直すのは、最初の1週間は楽しくても、その後は懐かしむだけになりがちです。新しい曲も加えてください。
- 力みを無視する。 手首や前腕、肩に力が入ったら、ゆっくり弾きます。力んだまま続けると、大人はけがをすることがあります。
楽譜を読む力を特に取り戻したいなら、週に一度たくさん読むより、毎日少しずつ、初めてのやさしい楽譜を読んでください。
よくある質問
大人になってピアノを再開すると、どれくらいで以前のように弾けますか?
以前どの程度まで弾いていたか、どれくらい離れていたかによりますが、再開する人の多くは数週間で再び楽譜を読み、簡単な曲を弾けるようになります。初めて習うときよりずっと早いペースです。指の動きや速さを以前の水準に近づけるには、それより長く、通常は数か月の定期的な練習が必要です。以前のレベルより2級ほど下から始めると、そこから比較的早く戻っていけます。
ピアノの弾き方は忘れてしまいますか?
すべてを忘れるわけではありません。楽譜の読み方やリズム、鍵盤の位置関係、しっかり覚えた曲は、何年離れていても残っていることが多く、驚くほど覚えていることもあります。一方で、指を独立して動かす力や筋力、速さ、持久力や、初見でなめらかに読む力は衰えます。フレーズがどう鳴るべきかは分かるのに、まだ手が思うように動かないのはそのためです。
子どもの頃に弾いた曲をもう一度練習したほうがいいですか?
1曲か2曲は弾き直してみてください。初めての曲より早く弾けるようになり、何が残っているかも分かります。ただし、昔の試験曲だけで練習を組み立てる必要はありません。今弾きたい曲も自分で選んで、一緒に練習してください。自分で選んだ曲なら、その音を聴きたいと思ってピアノに向かいやすくなります。
ピアノを再開するとき、もう一度レッスンを受ける価値はありますか?
一人で練習するつもりでも、再開したばかりの頃に数回レッスンを受ける価値はあります。手首に力が入る、手の形が崩れるといった、いつの間にかついた癖や以前直せなかった癖を先生に見てもらえます。どのレベルから始めると無理がないかも判断してもらえます。その後はアプリや本、好きな録音を使って日々練習しながら、1〜2か月に一度レッスンを受けると、自分の状態を客観的に確かめられます。
最後に
ピアノの再開を、最初からのやり直しだと考えると、気持ちが折れてしまうことがあります。何もかも忘れたと思って最後に覚えている曲を弾き、以前の音との違いを聴いて、そっと蓋を閉じてしまうかもしれません。それでも、楽譜の読み方やコードの知識は残っています。昔の曲の断片がふと戻ってくることもあります。主に取り戻す必要があるのは、指や腕を動かす力です。大人になってからも、焦らず、時間を決めて定期的に練習すれば戻ってきます。
以前よりやさしいレベルから始め、短い時間で練習してください。昔の課題曲だけでなく、自分で選んだ1曲も弾いてみます。再開する人の多くは、1か月もすると、耳で覚えている演奏に手の動きが思ったより早く近づいていると感じます。昔の曲で譜読みの感覚を取り戻しつつ、弾くのが楽しみな曲も一つ練習に加えます。再開のきっかけになった曲に楽譜がなければ、Anything Pianoで録音から弾くこともできます。