ピアノパートがない曲をピアノで弾くには、それぞれの楽器の役割を両手に振り分けます。歌のメロディや中心となるリフは、右手で一番上に置きます。ベースラインのルートは左手、その間を埋めるコードはギターやシンセから拾います。ドラムの役割は、左手の伴奏パターンのリズムに移します。元の音はかなり省くことになります。ピアノ用の編曲では、元の楽器の役割をピアノで伝わる形に置き換えるからです。
弾きたい曲の多くは、そもそもこのタイプです。ギター中心のロック、アカペラ、EDM、ヒップホップ、最近のポップスの多くには、録音にピアノがまったく入っていません。ベースラインとコード、メロディを同時に弾けるピアノは、こうした曲を一人で演奏するのに最も適した楽器です。
そのまま移せる音と省く音を分け、各楽器の役割を鍵盤の上に配置していきます。どの手に何を任せるかは下の表が目安になります。
SongscriptionとAnything Pianoは、どちらも私たちPlay Anythingが開発しています。耳コピも、多くのピアノ編曲者が今も頼りにしている方法です。
バンドの音をどこまでピアノに移せるか
歌のメロディ、ギターやシンセのリフ、ベースラインの三つは、ほぼそのまま移せます。どれも単音の連なりで、ピアノでも弾きやすいからです。コードも移せますが、音の配置であるボイシングは変わります。歪みやシンセの音の質感、ドラムのグルーヴには、ピアノで直接置き換えられる音がありません。そのままコピーする代わりに、弾き方で感じさせます。
リフは右手で弾く
ロックでは、歌以上にギターのリフが曲の顔になっていることもあります。右手で弾けば、その特徴を残せます。音域は、ギターより1〜2オクターブ上が目安です。重いリフはオクターブで重ねて弾くと、ギターの歪みが生んでいた厚みをピアノでもある程度出せます。
ベースは左手で弾く
ベースラインはコードの動きを示し、拍の流れを作ります。どちらも左手に任せやすい役割です。まずは、ベースが弾いている拍に合わせて各コードのルートを弾きます。ルートが安定して弾けるようになったら、ベースが音をつなぐために入れている経過音も足します。音が重なる録音では、ヘッドホンを使って再生速度を落とすと、ベースをずっと追いやすくなります。
歌のメロディは一番上に置く
歌う人がいないなら、歌のメロディを右手の一番上に置きます。多くの人が、そこを聴いて何の曲か分かるからです。リフと歌を同時に弾きにくいときは、イントロや歌の合間にリフを入れ、歌が始まったらメロディに切り替えます。
各楽器の役割をピアノに振り分ける
バンドの各楽器には役割があり、ピアノにもその役割を受け持ちやすい場所があります。ロック、ポップス、EDM、アカペラの多くは、下の表を出発点にできます。基本は、単音のフレーズは音を残し、コードは鍵盤の中央へ寄せ、ドラムのように決まったピッチがない音はリズムに置き換えることです。
録音に入っている楽器と、ピアノでの役割、担当する手、弾き方の目安
| 録音の楽器・パート | ピアノでの役割 | 担当する手 | 弾き方の目安 |
|---|---|---|---|
| メインボーカル | メロディ | 右手の一番上 | 元の音どおりに弾き、速いフレーズは簡単にします |
| リードギターのリフ | 曲の印象を決めるフレーズ | 右手。オクターブで重ねることも多い | 1〜2オクターブ上げ、厚みが欲しければオクターブで重ねます |
| リズムギターのストローク | コードとリズム | 右手か左手の中音域 | ストロークのリズムに合わせ、コードの音を同時に、または分散して弾きます |
| パワーコード | 低音域のコード | 左手 | ルートと5thだけでは薄くなるので、オクターブに5thを加えます |
| ベースギター、シンセベース | ベースライン | 左手 | まずルートを弾き、あとから経過音を足します |
| ドラム | 拍の流れ | 左手の弾き方で表現 | バックビートにアクセントを置き、動きのある伴奏パターンを使います |
| シンセパッド、ストリングス | 伸ばすコード | どちらの手でも。ペダルを使う | 中音域でコードを伸ばします |
| バックコーラス | 内声のハーモニー | 右手のメロディより下 | メロディの下に音を一つか二つ加えます |
| アカペラのビートボックス | 拍の流れ | 左手の弾き方で表現 | ビートボックスのリズムに合わせて低音を弾きます |
アカペラは、すべてのパートが人の声という点で面白い例です。バスのパートは左手、メインの歌は右手の一番上に置き、その間の声をコードにまとめます。仕上がりはポップスというより讃美歌のピアノ編曲に近くなることが多く、それもよい響きになります。
EDMは反対に、音作りが曲の大部分を占めます。音の並びだけを取り出すと、三つか四つのコードに短いシンセのリフが乗っているだけ、という曲もよくあります。難しいのは、盛り上がりが一気に来るドロップの部分です。その迫力は音作りから来ています。リフをオクターブで重ね、コードが変わるたびに左手で低いオクターブを弾くと、ピアノでも力強さを出せます。
どの音を省くか
ほかのパートと重なる音、音の並びよりも音色が魅力になっている部分、ドラムのほぼすべてを省きます。バンドの録音では、同じコードを三つの楽器が弾いていることもありますが、ピアノでは一度弾けば足ります。メロディ、ベースのルート、コードに加えて、曲を特徴づけるフレーズを一つか二つ残します。音が込み入ってきたら、まずメロディとベースの間にある内声から減らしてください。
次のような部分は、たいてい省いても曲が伝わります。
- リズムギターとシンセが同じコードを弾いているなら、ピアノでは一度だけ弾きます。
- 速いギターソロを全部弾こうとしなくてもかまいません。ギターのフレットボードに合ったフレーズなので、出だしと終わりだけ残すか、代わりにサビのメロディを弾きます。
- 歌のアドリブやバックコーラスの合いの手は、録音では魅力的でも、両手で弾くと音が混み合います。
- ドラムのフィルは省き、左手の短いフレーズや、コードを伸ばす弾き方で曲の区切りを示します。
- ディレイの余韻、フィルターを動かして変化させる音、徐々に上昇する効果音のライザーには、ピアノで対応する音がありません。そのまま省きます。
残したいのは、聴いた人が2秒で何の曲か分かる部分です。多くの場合はイントロのリフやサビの最初のフレーズなので、そこは元の音どおりに弾く価値があります。編曲全体の進め方は、曲をピアノ用に編曲する方法で、音を選ぶ順序に沿って説明しています。
録音から各パートを拾う方法
ピアノに残す音を選ぶには、まず各楽器が何を弾いているかを聴き分ける必要があります。音が重なる録音では、そこが難しいところです。方法は大きく三つあります。耳で聴き取る、楽器ごとの楽譜を参考にする、各パートをまとめたピアノパートを作ってもらう、という方法です。
耳コピする
ヘッドホンを使って、一度に一つの楽器を追います。音が込み入ったところは再生速度を落としてください。一番時間がかかる方法ですが、聴き取る力は最も身につきます。音が重なるロックの録音では、採譜の前にステムを分離する方法が役立ちます。ベースとギターを別々に聴けると、それぞれの音をずっと追いやすくなります。
楽器ごとの楽譜を参考にする
SongscriptionのMulti-Instrumentは、一度の採譜で、聴き取った楽器ごとのパートを楽譜にします。ギター、ベース、歌、シンセ、ドラム、弦楽器、金管楽器、木管楽器、鍵盤楽器に対応しています。ベースライン、リフ、歌のメロディを楽譜で並べて見られるので、どの音をどこに置くか判断するときに、最も分かりやすい手がかりになります。どの音を残すかは自分で決めるため、編曲を身につけたいときに向いています。バンド全体をどう採譜するかは、複数楽器の採譜ガイドで説明しています。
ピアノパートを作ってもらう
録音にピアノがなくてもピアノパートを作れるAnything Pianoのようなアプリなら、各パートをまとめる作業を任せられます。ギター中心のロック、アカペラ、EDMなどのオーディオファイルかYouTubeリンクを渡すと、Anything Pianoが原曲らしさのあるピアノパートを作ります。弾く音は、上から流れてくるピアノロールで表示されます。演奏をマイクで聴き取るので、MIDIキーボードだけでなくアコースティックピアノでも使えます。再生速度を落としたり、片手ずつ練習したりもできます。運指の表示をオンにすると、ピアノロールに指番号が出て、各音をどの指で弾くか分かります。
楽譜が欲しいときには制限があります。Anything Pianoで表示されるのはピアノロールで、楽譜はありません。各パートをまとめたピアノパートを紙で見たいなら、ピアノ採譜で録音をピアノの楽譜にできます。
ピアノパートがない曲を編曲する手順
低い音から順に組み立てます。まずベースライン、次にコード、最後に一番上のメロディやリフです。この順なら、初めは音が少なくても、どの段階でも曲として通して弾けます。一般的なロックやポップスなら、何回かに分けて取り組むと一曲を編曲できます。どの音を残すかは、自分で判断します。
- 曲の構成を確認します。イントロ、AメロやBメロ、サビ、ブリッジがどこにあり、リフがどこで出てくるかを押さえます。
- 左手だけでベースのルートを覚えます。録音に合わせて弾いてください。
- 右手にコードを足します。鍵盤の中央あたりで、ギターやシンセのリズムに合わせてコードの音を同時に弾きます。
- 右手の中心をコードからメロディに替えます。歌のメロディを一番上に置き、その下にコードトーンを一つか二つ残します。
- イントロや間奏にリフを足します。厚みが欲しければオクターブで重ねます。
- 左手に動きのある伴奏パターンをつけます。録音でドラムが作っていた拍の流れを、ピアノで表します。
静かなAメロから大きく盛り上がるサビへ進む曲など、部分ごとに雰囲気が変わる曲では、左手の弾き方も変えます。ポップスをピアノで弾くためのガイドには、この段階で使える左手の伴奏パターンを表で載せています。
よくある質問
ピアノが入っていない曲は、どうすればピアノで弾けますか?
それぞれの楽器の役割を両手に振り分けます。歌のメロディや中心となるリフは右手、ベースラインは左手で弾き、その間をギターやシンセのコードで埋めます。ドラムは直接再現せず、左手のリズムで感じさせます。Anything Pianoはどんな録音からでも、このように各パートをまとめたピアノパートを作り、ピアノロールで表示します。
ギターの曲はピアノでも弾けますか?
弾けます。ロックにもピアノに合う曲はたくさんあります。ただし、ギターの音をそのまま移せるとは限りません。ルートと5thだけのパワーコードは、歪みがなくなるとピアノでは薄く聞こえます。左手の低い音域で、オクターブに5thを加えて弾いてください。リフはたいてい右手で元の音どおりに弾けます。厚みが欲しいときはオクターブで重ねます。
バンドの曲をピアノ用に編曲するときは、何を省けばよいですか?
ほかのパートと重なる音、音の並びよりも音色で成り立っている部分、ドラムの大部分を省きます。メロディ、ベースラインのルートの動き、コードに加えて、イントロのリフなど曲を特徴づけるフレーズを一つか二つ残します。音が多すぎるところは、まず内声から減らしてください。コードの音が一つ欠けるより、メロディが欠けるほうが聴く人にはすぐに分かります。
曲の中で各楽器が何を弾いているか、どうすれば分かりますか?
ヘッドホンで一つの楽器に集中して聴き、音が込み入ったところは再生速度を落とします。楽譜で確かめたいときは、SongscriptionのMulti-Instrumentを使うと、一度の採譜でギター、ベース、歌、シンセ、ドラムなど、聴き取った楽器ごとのパートを作れます。ベースラインやリフを確認してから、ピアノに残す音を選びやすくなります。
おわりに
オーケストラの曲を一人で弾ける形にまとめるために、昔からピアノが使われてきました。録音がなかった時代、多くの人は交響曲やオペラを、自宅の居間でピアノ用の編曲として聴いていました。ロックをピアノで弾くときも、同じ技術を新しい編成の音楽に使っています。
音を一つずつ追う前に、各楽器が何を担当しているかを考えると、まとめやすくなります。録音の中での役割が分かれば、ピアノのどこに置くかも決めやすくなります。自分で音を選びたいなら、各パートを楽譜で見ながら進められます。今夜から弾き始めたいなら、Anything Pianoにピアノパートを作ってもらう方法もあります。どちらを選んでも、録音にピアノが入っていない曲も弾けるようになります。