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音声から楽譜を作るツールは、どれも同じように音を拾うわけではありません。一度に1音を追うのか、それとも同時に鳴る複数の音を拾えるのか。この違いを表すのが、モノフォニック採譜とポリフォニック採譜です。広告に載っている精度の数字よりも、ツールで実際に何ができるかを判断する手がかりになります。
モノフォニック採譜とは
モノフォニック採譜は、一度に1音だけが鳴る音声を楽譜にすることです。「モノフォニック」は単一の声部を意味します。どの瞬間にも、鳴っている音の高さは一つだけです。
この条件があるので、モノフォニック採譜は複数音の採譜よりも単純です。信号の中で一つの周波数が強く現れていれば、アルゴリズムはほかの音にあまり邪魔されず、ピッチの変化を正確に追えます。
モノフォニックな音声の例
典型的なのはフルートの独奏です。管楽器の多くは、一度に一つの高さの音を出す構造になっています。伴奏のない歌も同じです。アカペラの独唱や、伝統的な民謡の旋律などが当てはまります。
コードを弾ける楽器でも、1本の弦だけで旋律を弾けばモノフォニックです。たとえばギターの1弦、高いEの弦だけを使い、ほかの弦を鳴らさずに弾いた旋律は、採譜ツールが扱いやすい音声になります。ベースラインだけを取り出した音声も同様です。エレキベース、ウッドベース、シンセのどれで演奏したものでも変わりません。
モノフォニックな音声を採譜しやすい理由
モノフォニックな音声は、アルゴリズムにとって解析しやすい信号です。別の音の周波数や倍音が重ならないので、複数音の音声に比べて判断に迷う箇所が少なく、基音の周波数が時間とともにどう変わるかを追えます。
必要な信号処理も限られます。最も強く現れる周波数を見つけ、その変化を追って、音名とリズムに変換します。初期の採譜ソフトがモノフォニックな音声を中心に扱っていたのは、このためです。一つの声部なら基本的な周波数解析で対応できましたが、コードや複数のパートが重なる音楽には、それだけでは対応できませんでした。
ポリフォニック採譜とは
ここでいうポリフォニックな音楽は、同時に複数の音が鳴る音楽です。ピアノで左手のベース音を伸ばしながらコードを弾く場面や、ギターで高音弦のメロディーを響かせながらストラムする場面を思い浮かべてください。同時に二つ以上の高さの音が鳴っていれば、ポリフォニックに当たります。
ポリフォニック採譜では、その音声を楽譜にするとき、一番大きな音だけでなく、鳴っている声部をすべて拾います。モノフォニック採譜が1本の線を追うのに対し、ポリフォニック採譜は重なり合う複数の線をほどき、正確に書き分ける必要があります。一つの楽器のパートの中で二つの声部が絡み合うこともあれば、ピアノの両手で独立したメロディーとベースラインが動くこともあります。
ポリフォニックな音声の例
よくあるのがピアノの演奏です。単純なトライアド(三和音)でも、ツールは同じ瞬間に鳴る複数のピッチを見分け、譜表上の正しい位置に音符を置かなければなりません。
ギターも、1人で弾いているからといって単音とは限りません。開放弦と押さえた弦の音を組み合わせたり、コードをストラムしながらメロディーを拾ったりすれば、複数の独立した声部を別々に追う必要があります。複数音が重なるのは特別なケースではなく、普段演奏する音楽の多くがそうです。
ポリフォニック採譜が難しい理由
倍音が重なると、信号を分離する必要があります。従来のモデルは、これをうまく処理できませんでした。複数の音が同時に鳴ると、それぞれの基音と倍音が混ざって一つの波形になります。初期のソフトでは、どの周波数がどの音に属するかを見分ける手段が限られていました。
ピアノのコードを構成する音は、それぞれ一つの周波数だけでできているわけではありません。各音にいくつもの倍音が含まれ、低い音の倍音が、同時に鳴る高い音の基音とぴったり重なることもあります。以前のアルゴリズムでは、こうした重なりを安定して解きほぐすのが難しかったのです。
複数音の音楽に特化して学習した現在のAIモデルによって、扱える範囲が変わりました。Songscriptionのピアノ採譜などは、この問題に対応するために作られています。最も強い周波数だけを拾うのではなく、声部を分離し、コードのボイシングを見分けるように学習しています。どの録音でも完璧な結果になるわけではありませんが、従来の手法と現在のモデルでは、得られる結果に大きな差があります。
モノフォニック採譜とポリフォニック採譜の主な違い
実用上の違いは、信号の複雑さと、アルゴリズムに必要な処理に表れます。
- モノフォニック採譜は、最も強く現れる一つの周波数が時間とともにどう変わるかを追います。追う対象が一つにはっきり絞られ、この条件でのピッチ検出は比較的成熟した技術です。誤りが出るときも、音の高さよりリズムに関するものが中心です。
- ポリフォニック採譜は、重なり合う複数の周波数を同時に追います。その際、各音の基音と倍音を区別しなければなりません。
- 扱う音声が違います。 モノフォニックな音声には、管楽器の独奏、伴奏のない歌、1本の弦で弾いた旋律などがあります。ポリフォニックな音声には、ピアノのコードやギターのストラムなど、複数の声部が同時に鳴る演奏が含まれます。普段演奏する音楽の多くはこちらです。
- 書き出す内容も違います。 モノフォニック採譜で得られるのは1本の旋律です。ポリフォニック採譜では、複数の声部、コードのボイシング、ボイスリーディング(コードが変わるときの各声部の動き)に加え、独立したパート間の複雑なリズムも扱う必要があります。
多くの演奏者にポリフォニック採譜が必要な理由
実際の音楽で、単音だけが続く場面は限られます。ギターの独奏でも、開放弦を響かせたまま別の音を押さえます。ピアノは2個目の鍵盤を押した時点で複数音になり、演奏の大半で音が重なります。モノフォニック採譜だけのツールでは、その一部しか拾えません。
音が密に重なるほど、ツールが複数音をどこまで扱えるかが問われます。弾き始めのうちは単音の簡単なメロディーを練習していても、より難しい曲を弾くようになると、コード進行や対位法、いくつものパートが重なるアレンジを扱うようになります。単音専用のツールは、そうした音楽を採譜するためには作られていません。採譜したい曲を扱うには、複数音への対応が必要です。
AIは単音と複数音をどう扱うのか
単音のメロディーなら、アルゴリズムは最も強く現れる一つの周波数を追えばよく、比較的単純なピッチ検出で対応できます。複数の音が同時に鳴ると、重なり合う周波数のパターンを見分け、分離しなければなりません。この処理には、複数音の音楽で学習したニューラルネットワークが大きく役立ちます。
ポリフォニック採譜が進歩したのは、ディープラーニングへの移行があったからです。従来の信号処理では、ピッチが重なると対応に限界がありました。現在のネットワークは、そうした手法では扱えなかったコードのパターンや楽器の組み合わせを学習して見分けます。
根本にある難しさは、今も倍音の重なりです。一つひとつの音には、響きの豊かさや音色を作る倍音が含まれています。楽器が一緒に鳴ると、それぞれの倍音が重なって干渉します。どの周波数がどの音から来たのかを見分けるのが難しくなるのは、このためです。
実際の精度はどこで分かるか
精度の高いポリフォニック採譜では、コードのボイシングが正しく、実際には鳴っていない余計な音符も少ない、読みやすい楽譜が得られます。ベース、メロディー、ハーモニーを別々の声部として拾い、音のタイミングもそろっています。よくある誤りは、音が密集した箇所でベース音が抜けること、強い倍音を別の音と捉えて音符が重複すること、細かな装飾音を伸ばした音と読み違えることです。
複雑な編成や音質の悪い音声では、精度が下がります。明瞭なピアノ独奏の録音なら、十分に学習したモデルはよい結果を出します。同じモデルでも、楽器の音が幾重にも重なるライブ音源では、修正が増えます。Songscriptionでは、採譜結果をピアノロールエディターや楽譜表示で確認できます。こうしたツールなら、アプリを行き来せずに見直せます。詳しくは音声から楽譜を作る流れを参照してください。
ポリフォニック採譜ツールを選ぶときの確認点
複数音に対応していると書かれていても、どのツールも同じように採譜できるわけではありません。使い始める前に、実際の結果、得意な楽器、書き出せる形式を確かめてください。
まずは実際に使う音声で試す
紹介ページの説明だけで、複数音を扱えると判断しないでください。AIによる高精度な採譜をうたっていても、一度に1音しか追っていないツールは少なくありません。簡単なピアノのコードや、短いギターのストラムをアップロードして結果を見てください。複数音を正しく扱えていれば、同じ時刻に複数の音符が表示されます。その時々で最も強い周波数だけを拾う結果とは区別できます。
モデルがどの楽器に対応しているかを確かめる
複数音の採譜精度は、楽器によって大きく変わります。ピアノを得意とするモデルでも、ギターや金管楽器では結果がはっきり劣ることがあります。倍音の構成や演奏技法が異なるので、楽器ごとの学習が必要だからです。何でも幅広く扱えるとうたうツールより、どの楽器の採譜が得意かを具体的に示しているものを選んでください。
主に一つの楽器を採譜するなら、その楽器に絞って学習したモデルのほうが、汎用モデルよりもよい結果を出すのが一般的です。すべての音を一つの譜表にまとめるのではなく、楽器ごとに別のパートへ書き分けたい場合は、複数楽器の採譜ソフト比較を参照してください。
用途に合う形式で書き出せるか
採譜した後に何をしたいかで、必要な形式は変わります。演奏に使うなら楽譜、DAWで作業するならMIDI、楽譜作成ソフトで編集するならMusicXMLです。一つの形式にしか書き出せないと、その後の作業に手間がかかります。MIDIでの書き出しと活用については、音声をMIDIに変換するガイドで詳しく説明しています。
採譜したい音楽に合わせて選ぶ
音楽の多くは複数の音が重なっているので、多くの演奏者には、それを扱える採譜ツールが必要です。モノフォニック採譜も、単独のメロディーや、切り出したベースパートには使えます。ただ、書き留めたい音楽のうち、扱えるのは限られた範囲です。
複数音にしっかり対応したモデルなら、単音の音声も難なく扱えます。一方、単音専用のツールでは、右手で弾いたコードを丸ごと拾えません。迷ったら、採譜する予定の音声の中でも難しいものを試してください。スケールのような単音の並びより、音が重なるコードで試すほうが、対応できる範囲を確かめられます。
よくある質問
モノフォニック採譜とポリフォニック採譜の違いは何ですか?
モノフォニック採譜は、一度に1音だけが鳴る音声を楽譜にします。時間とともに変わる、最も強く現れる周波数を追います。ポリフォニック採譜は、同時に複数の音が鳴る音声を扱います。一番大きな音だけでなく、鳴っている声部をすべて拾う必要があります。管楽器の独奏や伴奏のない独唱はモノフォニックの例です。ピアノのコードやギターのストラムなど、普段演奏する音楽の多くはポリフォニックに当たります。
ポリフォニック採譜はなぜ難しいのですか?
倍音が重なるため、信号を分離するのが難しくなります。複数の音が同時に鳴ると、それぞれの基音と倍音が混ざって一つの波形になります。低い音の倍音が、同時に鳴っている高い音の基音と同じ周波数になることもあります。複数の音が重なる音楽に特化して学習した現在のAIモデルでは、従来の信号処理よりも、この問題に対応しやすくなっています。ただし、どの録音でも完璧に採譜できるわけではありません。
複数音を本当に採譜できるツールか、どう確かめればよいですか?
紹介ページの説明だけで判断せず、実際に使う音声で試してください。簡単なピアノのコードや短いギターのストラムをアップロードし、結果を確認します。複数音を正しく扱えるツールなら、同じ時刻に複数の音符が表示されます。その時々で最も強い周波数だけを拾う結果とは区別できます。採譜の精度は楽器によって大きく変わるので、そのモデルがどの楽器に対応しているかも確かめてください。
