資料楽譜Andrew Carlins•読むのに約8分

誰かの手の中にあった曲を残す:音楽を楽譜に書き留める理由

これまでに作られた音楽のほとんどは、楽譜に書き留められませんでした。誰かが耳や手で覚えていた曲は、その人がいなくなると、一緒に消えていきました。楽譜に残せば、弾いていた人がいなくなっても曲は生き続けます。今は、曲を書き留めるのもかつてないほど簡単です。

音楽を楽譜に残す。家族の曲や自分の演奏を、記憶が薄れる前に書き留める

人がこれまでに作った曲は、そのほとんどが失われています。長い間、曲は弾き手が耳や手で覚えて伝えてきたものでした。そばに座って覚えられる人に伝えられ、その曲を知る最後の人が亡くなると、一世代か二世代のうちに消えていきました。音楽の歴史というと、残った曲を思い浮かべがちです。その向こうには、残らなかった無数の曲が静かに広がっています。

楽譜に書き留めることで、曲を後の世代に残しやすくなりました。書き残された曲は、それを聴いた人が誰もいなくなってからも生き続けます。何世紀も前の音楽を今弾けるのは、楽譜があるからです。大切な曲も、その曲を知る人と一緒に消えてしまわずに済みます。

記憶の中にしかない曲は何を失うのか

耳で伝えられる音楽には、楽譜にはない生きた姿があります。それは強みでもあり、弱みでもあります。弾く人がそれぞれ少しずつ変えるうちに、メロディーは変わり、簡単になり、いくつもの形に分かれていきます。そうした変化も、生きた伝承の美しさの一つです。

けれども、たった一人の手の中にしかなかったメロディーは、その人が弾かなくなると、形を変えて残ることもありません。ほかに記録はないのです。祖父母が集まりでよく弾いた曲、礼拝を進める人が編曲し、会衆が30年歌ってきた曲、谷あいの誰もが弾けたフィドルの曲。友人が何気なく弾き、頭から離れなくなったリフもそうです。心臓発作や引っ越し、大変なことが続いた一年をきっかけに、二度と聴けなくなることがあります。

録音と楽譜、それぞれに残るもの

録音があれば、曲の一部は残せます。録音は貴重なものです。残せるものはすべて取っておいてください。ただ、録音に残るのは一回の演奏です。音声ファイルからは演奏を聴けますが、コードの動きは見えません。内声のパートをほかの人に渡すこともできません。声に合うキーに移したり、難しい部分の再生速度を落として覚えたり、合唱用に印刷したりすることもできません。音楽は音の中に閉じ込められています。

楽譜に書き留めれば、元の演奏を知らなくても、50年後に楽譜を初めて手に取った人が正しく弾けます。どんな音だったかを録音に残し、どんな曲だったかを楽譜に残します。両方をそろえるのが理想です。

楽譜に残すための大きな壁が低くなった

長い間、音楽を書き留めるには、採譜の技術と十分な時間が必要でした。コードを聴いて名前を言い当て、リズムを割り出し、五線譜にきれいに書けなければなりません。今でも耳で聴いて採譜する練習からは、ほかのほとんどの方法より多くのことを学べます。けれども曲を残すには、かなりの手間をかける必要がありました。書き留められないまま、ほとんどの曲は消えていったのです。

今は録音があれば、古いものや音の粗いものでも、数分で読める楽譜にできます。AIが音声から楽譜の下書きを作ります。間違ったところは、耳で確かめながら直します。かつては午後いっぱいかけて注意深く聴き、書き留めていた曲も、お湯が沸く前に、コードや読めるピアノロールとともに紙に残せます。

今から残せる音楽

身の回りにも、誰かの手の中にしかない音楽があります。楽譜を読まずに耳で聴いて弾く家族の演奏。友人がスマートフォンに録音したまま忘れてしまったオリジナル曲。バンドのリハーサルで作り、4人の記憶にだけ残っているアレンジ。夜遅くに即興で弾き、覚えておこうと思いながら忘れてしまう自分の演奏もそうです。

どれも記録に残せます。できるだけきれいに録音してください。静かな部屋で一つの楽器を録るのが最適です。それからSongscriptionで録音を楽譜にし、下書きを整えます。古いテープや音の良くないテープからも書き起こせます。音楽のアイデアを残す習慣については、音楽のアイデアを忘れる前に残す方法という短い記事にもまとめています。あわせてAIの時代に人間の演奏者に残るものも書いています。

楽譜にすべてを残せるわけではありません。その人ならではのタッチや、フレーズのスウィング感、少し外れた音。その人らしさを生むこうした細かい違いは、楽譜には残りません。楽譜は地図のようなもので、演奏そのものではありません。古い録音から書き起こした楽譜を仕上げるには、自分の耳でしっかり確かめる必要があります。それでも地図があれば、もう一度その場所に戻れます。誰かの手の中にあった曲も、そこで消えてしまわずに済みます。

よくある質問

録音があるのに、楽譜に残すのはなぜですか?

録音には一回の演奏が残り、楽譜には曲そのものが残ります。録音を聴くことはできますが、コードを見たり、ほかの演奏者にパートを渡したり、移調したり、フレーズごとに覚えたりするのは簡単ではありません。楽譜にすれば、ほかの人が手に取って弾ける形になります。その曲を知る人が一人しかいなくても、その人がいなくなった後に曲を残せます。録音と楽譜の両方を残すのが一番確かです。録音を保存し、そこから楽譜を書き起こしてください。

楽譜になったことのない曲は、どうやって書き留めますか?

できるだけきれいに録音してから、録音を楽譜に書き起こします。耳で聴いてフレーズごとに音を拾う方法もあります。AIの採譜ツールで音声から下書きを作り、間違いを直す方法もあります。静かな部屋で一つの楽器を録音すると、最も良い結果が得られます。メロディーやコード、曲の形が分かる、読みやすい楽譜やリードシートに仕上げます。

家族の演奏や家族に伝わる曲も、この方法で残せますか?

はい。家族の演奏や曲を残すために、楽譜を書き起こすのもよい方法です。祖父母のピアノ演奏や、家族が作った曲の録音があれば、音声から楽譜に書き起こせます。紙に残しておけば、楽譜を読める人なら誰でも弾けます。古い録音や音の良くない録音からでも下書きを作り、耳で聴きながら整えられます。消えやすい記憶を、形にして残せます。

残しておきたい曲があるなら、今週、手元にある一番きれいな録音を探し、楽譜に書き起こしてください。

著者について

Andrew Carlins

著者

Andrew Carlins

Songscription共同創業者・CEO

アンドリューは、弾きたい曲の楽譜が見つからないことにうんざりしていた音楽仲間数人と、スタンフォード大学でSongscriptionを共同創業しました。子どもの頃からピアノとバリトンサクソフォンを演奏し、ミュージカルの舞台にも立っていました。もう何年も舞台には立っていませんが、今も腕は鈍っていないつもりです。録音から音を拾って楽譜にすることについて書いています。

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