楽譜の浄書は、音符や記号をページ上に配置し、ひと目で読みやすく仕上げる作業です。音符のスペーシング、連桁のグループ化、符幹の向き、臨時記号やスラー、強弱記号の位置、行やページの区切りを決めます。同じ音符が書かれた2つの楽譜でも、浄書によって読みやすさは変わります。
英語の「engraving」という呼び名は、印刷用の銅やピューターの板に手で楽譜を彫っていた時代に由来します。浄書の職人たちは何世紀もかけて、読みやすいページを作るための慣例を築いてきました。今はソフトウェアで作業しますが、きれいに仕上がった楽譜の基準には、今もその慣例が生きています。楽譜の読み方を学んでいるところなら、先に楽譜の読み方を読んでみてください。
浄書で読みやすさが変わる理由
楽譜を読むときは、音符の形やまとまりを見分けています。読み慣れた人は、音符を一つずつ数えるわけではありません。連桁でつながれた4つの16分音符を見て1拍分だと分かり、4/4拍子の小節の3拍目も考えずに見つけます。配置が整っていれば、こうしたまとまりが自然に目に入ります。配置が悪いと、単純な曲でも一つずつ読み解くようになります。
音符は正しくても、間隔が狭く、連桁のグループ化が不自然で、スラーが強弱記号を突き抜けている楽譜は、実際には弾きにくいものです。
音符のスペーシングはなぜ均等ではないのか
読みやすく浄書された楽譜では、長い音符ほど横に広い間隔を取ります。音符の長さを一つずつ読む前に、リズムが目に入るようにするためです。4分音符が並ぶ小節は、16分音符が並ぶ小節より広くなります。
ただし、間隔は音符の長さに厳密に比例するわけではありません。2分音符に4分音符の2倍の幅を取ると、ゆっくりした部分は広がりすぎ、速い部分は窮屈になります。浄書ではもっと緩やかな比率を使い、2分音符には4分音符よりもはっきりと広く、2倍にはならない幅を取ります。複数の譜表では、同時に鳴る音符を縦にそろえます。ピアノの楽譜で両手の音符が拍ごとにそろっているのはそのためです。
臨時記号や付点音符、歌詞、コード記号を置くにも場所が必要です。音符同士の間を広げることになりますが、リズムが不均等に見えないように調整します。
連桁で拍を示す
連桁は短い音符をまとめ、拍の位置を見やすくします。4/4拍子では、通常、8分音符を2つまたは4つずつ連桁でつなぎます。小節の真ん中にあたる3拍目を見つけやすいよう、連桁に切れ目を入れます。6/8拍子では8分音符を3つずつつなぎ、付点4分音符を1拍とする2拍を示します。同じ音符でも連桁のグループ化が違うと、別の拍子に見えることがあります。
リズムの書き方にも同じ考え方を使います。4/4拍子で、3拍目の直前から始まり、その先まで続くシンコペーションの音は、2つの音符をタイでつないで書くことがよくあります。3拍目の位置が見えるようにするためです。連桁の傾斜はメロディーの上がり下がりに合わせますが、急に傾けないようにします。上がっていくメロディーでも、連桁は緩やかな上向きにします。拍子記号と音符のまとめ方については、拍子記号とはで詳しく説明しています。
符幹、臨時記号、スラー、タイの配置
記号の配置には、楽譜を整えて見せるための細かなルールがあります。
- 符幹の向き: 1つの声部だけを譜表に書くときは、中央線より上の音符の符幹は下向き、下の音符は上向きにします。中央線にある音符は慣例として下向きです。符幹の長さは通常、約1オクターブ分です。2つの声部を同じ譜表に書くときは、音符の位置にかかわらず、上の声部の符幹を上向き、下の声部を下向きにします。
- 臨時記号: 対象の音符のすぐ左に置きます。和音に複数の臨時記号があるときは、重ならないように位置をずらして列に並べます。前の小節のシャープやフラットがもう適用されないことを示す親切臨時記号は、括弧を付けることも付けないこともあります。詳しいルールは臨時記号とはを参照してください。
- スラー: 一般に符幹と反対側の符頭を覆うように曲線を描きます。両端は空中に浮かせず、符頭に付けます。フレーズ内で符幹の向きが上下に分かれるときは、通常、上側に置きます。
- タイ: 同じピッチの2つの符頭をつなぎ、符幹から離れる向きに曲線を描きます。スラーより短く浅い曲線にし、符頭の近くに置きます。楽譜上での見分け方はスラーとタイの違いで説明しています。
記号の重なり、改行、譜めくり
きれいに浄書された楽譜では、記号同士が重なりません。強弱記号は歌詞にぶつからず、スラーは臨時記号を横切りません。アーティキュレーションは連桁から離して置き、加線の付いた音符は上の譜表にぶつからないようにします。一つの記号を動かすと周りの記号も動かす必要が出てくるので、重なりを避けながらページ全体をすっきり整えます。
ページ内の配置にも気を配ります。
- 組段区切り: できるだけフレーズの終わりなど、音楽の切れ目に合わせます。各組段に入れる小節数も適切にします。2小節の組段の次に7小節の組段があると、読む前から不自然に見えます。
- 最後の組段: 1小節だけが取り残されないようにします。
- ページの区切り: 演奏者が譜めくりできるところに設けます。休符や伸ばしている音の間が理想です。特に楽器ごとのパート譜では重要です。フルスコアからパート譜を取り出す方法でも説明しています。
AIによる採譜と浄書
AIによる採譜では、正しい音を聴き取り、演奏者が読める形に書き出す必要があります。ピッチとリズムが合っていても、音符のスペーシングが不均等だったり、連桁が拍を無視していたりすると、楽譜は読みにくくなります。3拍目をまたぐリズムがそのまま書かれ、符幹がばらばらの向きになっている場合も同じです。
同じ音を聴き取った採譜ツール同士でも、出てくる楽譜の見た目が大きく違うことがあります。採譜モデルから直接出てくるデータは、楽譜というより、音が鳴る時刻を記したイベントの一覧に近いからです。読みやすい楽譜にするには、リズムの書き方、連桁のグループ化、譜表への振り分け、改行位置を決めなければなりません。
Songscriptionは独自の浄書エンジンで楽譜を配置します。上で紹介した慣例に従って音のイベントを譜表に配置し、採譜するたびに整った楽譜になるよう設計されています。エディターでは音符の修正やフレーズの移動、タイミングの調整もできます。仕上がったら、印刷用のPDFとして書き出せます。詳しくはピアノの楽譜をPDFで書き出す方法を参照してください。別のソフトで編集を続けるために、MusicXMLで書き出すこともできます。この記事に出てきた用語は、楽譜の用語集で簡潔に説明しています。
関連ガイド
- 楽譜の読み方: 楽譜の読み方と楽譜の用語集
- 記号と拍子: スラーとタイの違い、臨時記号とは、拍子記号とは
- 印刷とパート譜: ピアノの楽譜をPDFで書き出す方法とフルスコアからパート譜を取り出す方法
よくある質問
楽譜の浄書とは何ですか?
楽譜の浄書とは、音符や記号をページ上に配置し、分かりやすく読みやすい楽譜に仕上げる作業です。音符のスペーシングや連桁のグループ化、符幹の向き、臨時記号やスラー、タイ、強弱記号の位置、行やページの区切りなどを決めます。かつて印刷用の金属板に楽譜を彫っていたことから英語では「engraving」と呼ばれますが、今はソフトウェアで作業します。
楽譜によって仕上がりに差が出るのはなぜですか?
音符そのものよりも、浄書の違いが大きく影響します。きれいに仕上げられた楽譜では、長い音符により広い間隔を取り、連桁で拍を分かりやすく示します。符幹やスラーは標準的な慣例に従って配置し、臨時記号が密集したり、記号同士が重なったりしないようにします。行やページも音楽の切れ目に合わせて区切ります。一つひとつは小さな工夫ですが、合わさるとひと目で読みやすいページになります。
浄書によって初見の弾きやすさは変わりますか?
大きく影響します。初見で弾くときは、4つの16分音符のまとまりや、小節の3拍目の位置などを素早く見分けます。浄書が適切なら、音符のスペーシングや連桁によってそうしたまとまりや位置が分かります。浄書が不十分だと、音符がすべて正しくてもまとまりや位置が分からず、数えたり読み解いたりしなければなりません。
Songscriptionはどのように楽譜を浄書しますか?
Songscriptionは独自の浄書エンジンで楽譜を配置します。このエンジンは、この記事で紹介する標準的な浄書の慣例に従い、整った仕上がりになるように作られています。採譜した楽譜はエディターで確認、編集し、PDFとして書き出せます。別の楽譜作成ソフトで作業を続けたいときは、MusicXMLでも書き出せます。
知っている曲で仕上がりを見るには、録音を楽譜に変換してください。