ジャズピアノのソロは、録音から楽譜に書き起こすのが特に難しい演奏です。右手は半音を交えた速い単音のソロを弾き、左手はコードで伴奏します。全体にスウィングし、ルバートも多く、鍵盤の広い範囲を使います。両手の音が密集して素早く動くので、耳でも自動採譜でも聴き取るのに苦労します。ツールの性能は大きく向上しましたが、読みやすい楽譜が欲しいのか、MIDIデータが欲しいのか、耳で採譜するための補助が欲しいのかによって選ぶものは変わります。
私たちはSongscriptionを開発しています。自社製品を紹介する立場ですが、ほかのツールが向いている用途もできるだけ正直に書きます。ツールごとの向き不向きは、実際に試すと分かります。
まずは比較
- Songscription: ソロ全体を、右手の旋律と左手の伴奏を合わせた2段の楽譜にしたいときに向いています。楽譜は読みやすく、編集できます。複数の音を同時に採譜し、楽譜とMIDIを作れます。ブラウザで動きます。
- AnthemScore: デスクトップ向けの有力な選択肢です。スペクトログラムを見ながら修正できるので、音符を一つずつ視覚的に確かめたいときや、オフラインで作業したいときに向いています。
- Basic Pitch: 楽譜は不要でMIDIだけが欲しいなら、無料で使えます。Spotifyの研究チームが開発した、シンプルで速いツールです。複数の音を同時に採譜できます。
- Transcribe!などの再生速度を落とすツール: 自動採譜はしません。録音をゆっくり再生し、耳で採譜するために使います。演奏のノリを捉えるには、今もこの方法が定番です。
ジャズピアノのソロの採譜が難しい理由
管楽器のソロは単音の演奏です。一度に一つの音が鳴るので、一本の旋律を追います。ジャズピアノのソロでは、右手の速い旋律と左手のコード伴奏が同時に鳴ります。採譜するときは、この二つを聴き分けてそれぞれの譜表に振り分けます。そこにジャズならではの要素が加わり、いっそう難しくなります。
- 速さと半音の動き: ビバップのフレーズは速く、半音ずつ動きます。ピッチが近い音が短い間隔で続くため、間違いが生じやすくなります。
- スウィング: 8分音符は均等に演奏されません。その揺れをどう楽譜に書くかは、聴いて判断する必要があります。
- ルバートと走るリズム: 拍が伸び縮みするので、小節線や拍の境界を決めにくくなります。
- ボイシング: 左手の伴奏には、ルートを省いたものやテンションを加えたものなど、さまざまなボイシングが使われます。コードを構成する音を一つ聴き間違えることもあります。
どのツールでも音符の大部分は拾えますが、演奏のノリまでは正確に捉えられません。ソフトと耳のどちらかを選ぶのではなく、両方を使うのがよい方法です。ジャズのソロを採譜する方法でも、このやり方を紹介しています。
Songscription
得意なところ: Songscriptionは、複数の音が同時に鳴るピアノの録音から、読みやすい2段の楽譜を作ります。右手のソロと左手の伴奏を一緒に捉え、両手に振り分けます。編集できる楽譜とピアノロールが得られ、PDF、MIDI、MusicXML、Guitar Proに書き出せます。ジャズのソロなら、旋律だけでなく伴奏を含む全体の下書きができ、ブラウザで修正できます。無料枠があり、長いファイルを扱ったり、すべての形式で書き出したりするには、有料プランを使います。
苦手なところ: スウィングのノリやゴーストノート、アーティキュレーションを、聴いたとおりに正確に記譜することはできません。そこは耳で仕上げます。スペクトログラムを使って手作業で採譜するツールでもないので、周波数を表示して音符を一つずつ目で確認したいなら、デスクトップアプリのほうが向いています。ソロのきれいな楽譜を素早く作りたいなら、ピアノの採譜から始められます。
AnthemScore
得意なところ: AnthemScoreは、スペクトログラムを中心に使うデスクトップアプリです。周波数を表示し、録音の音を目で見ながら採譜結果を修正できます。複数の音を同時に採譜し、MIDI、MusicXML、PDFに書き出せます。オフラインで動き、ライセンスは買い切りなので、サブスクリプションよりこちらを好む人にも向いています。画面を見ながら音符を一つずつ確認し、手作業で細かく調整したいときに使えるツールです。
苦手なところ: デスクトップ専用で、ウェブツールより使い方を覚えるのに時間がかかります。速くスウィングするジャズのソロは、自動採譜したあとに手作業で修正する必要があります。修正に使う画面も、より専門的です。スペクトログラムを使って細かく作業したいなら向いていますが、読みやすい下書きを素早く作るだけなら機能が多すぎるかもしれません。AnthemScoreの代替ツールでは、ほかのツールと詳しく比べています。
Basic Pitch
得意なところ: Spotifyの研究チームが開発したBasic Pitchは、無料のオープンソースツールです。複数の音を同時に素早く採譜できます。音声を入れるとMIDIが出力されます。ソロをMIDIの音符としてDAWに取り込み、研究したい人には使いやすい無料の選択肢です。ウェブ版ならインストールも要りません。
苦手なところ: 出力されるのはMIDIで、読みやすいジャズのソロの楽譜は作れません。譜表への配置や両手への振り分けもされません。楽譜が必要なら、MIDIを楽譜編集ソフトに取り込み、自分でレイアウトを整えます。楽譜を読んで研究したいなら、この作業が必要です。MIDIが欲しいなら、そのまま使えます。音声をMIDIに変換するツールでは、ほかのMIDIツールと比べています。
Transcribe!などの再生速度を落とすツール
向いている用途: Seventh StringのTranscribe!やAmazing Slow Downerなどは、自動採譜ツールではありません。ピッチを変えずに録音の再生速度を落としたり、短い範囲を繰り返し再生したりして、耳で音を拾う作業を助けます。ジャズのアーティキュレーションやノリを捉えるには、今もこの方法が定番です。自動採譜と併用する人も多くいます。ソフトで音符の下書きを作り、再生速度を落とすツールで、拾えなかったスウィングやフレージングを確かめます。耳で採譜する力を身につけたいときは、採譜のための耳のトレーニングも参考になります。これらのツールは楽譜もMIDIも出力しません。聴き取った音は自分で書き留めます。
どのツールを選ぶか
- 両手のソロ全体を読みやすい楽譜にしたいなら、Songscription。ジャズのソロの採譜で必要になる、右手と左手の音をそれぞれの譜表に振り分けた楽譜を作れます。
- オフラインでスペクトログラムを見ながら音符を一つずつ確認したいなら、買い切りのAnthemScore。
- DAWで研究するためのMIDIだけを無料で手に入れたいなら、Basic Pitch。
- 演奏のノリを捉え、耳を鍛えたいなら、音符の下書きを作る自動採譜ツールと、再生速度を落とすツールを併用します。
左手のボイシングについては、ジャズピアノのコードを採譜する方法で伴奏を詳しく扱っています。ベースラインの採譜に向いたツールでは、同じ考え方を低音に当てはめています。採譜アプリ全般を比べたいときは、Melody Scannerの代替ツールと音楽採譜ソフトの比較も参考になります。音声から楽譜を作るページから、録音を使って始めることもできます。
よくある質問
ジャズピアノのソロを採譜するのに最適なツールは?
両手で弾くジャズピアノのソロを、読みやすく編集できる楽譜にするなら、まずSongscriptionが候補になります。複数の音を同時に採譜でき、MIDIだけでなく楽譜も作れます。右手の旋律と左手のコード伴奏を、それぞれの譜表に書き出します。デスクトップで使うならAnthemScoreも有力です。スペクトログラムを見ながら手作業で確認できます。MIDIだけが必要なら、無料のBasic Pitchが候補です。どれを使う場合も、細かなアーティキュレーションやスウィングは耳で仕上げます。
AIはジャズピアノのソロを正確に採譜できますか?
AIは大部分を採譜できますが、最後の細かな部分は苦手です。両手のソロのピッチと大まかなリズムは安定して捉えます。ここは耳で採譜すると時間のかかる部分です。一方、速いビバップの半音階的なフレーズ、スウィングの正確な音の割り方、装飾音符、ルバートは精度が落ちます。こうした細部がジャズのソロの表情を作ります。まずAIで下書きを作り、アーティキュレーションやノリを耳で仕上げると効率的です。
ジャズピアノのソロは管楽器のソロよりなぜ採譜が難しいのですか?
管楽器は一度に一つの音を出すので、サックスやトランペットのソロでは一本の旋律を採譜します。ジャズピアノでは、右手で単音のソロを弾きながら左手でコード伴奏を弾きます。複数の音が同時に鳴り、音域も広くなります。ピアノのソロを採譜するには、速い旋律と同時に鳴るコードを聴き分け、両手に振り分けなければなりません。管楽器の一本の旋律を追うより難しい作業です。
ジャズのソロは耳で採譜するべきですか、それともソフトを使うべきですか?
まずソフトを使い、そのあと耳で仕上げます。ソフトで音符の下書きを素早く作れば、手間のかかる音探しを省けます。そのあと、スウィングやアーティキュレーション、ゴーストノート、フレージングを耳で聴き取ります。こうしたノリは、今の自動採譜ツールではまだ十分に捉えられません。耳で採譜すると、使えるフレーズも増えます。AIで音符を拾った場合も、録音に合わせてソロを弾くことで学べます。
最後に
ジャズピアノのソロを完璧に採譜できるツールはありません。自動採譜によって変わったのは、時間をかける部分です。以前は速いフレーズの音を探すため、何時間も録音を巻き戻していました。今は音符の下書きが先にできるので、ソロの表情を作るノリやフレージング、ボイシングの選び方に時間を使えます。
どのツールを選んでも、録音を聴きながら確かめてください。音符が合っていても、ジャズのソロを学ぶ作業はまだ半分です。演奏者がなぜその音を選んだのかは、今も録音を聴いて学びます。